コロナ下で安心届けるテック・スタートアップ企業の取組み

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コロナ下で安心届けるテック・スタートアップ企業の取組み

2021年3月22日

文:アリソン・バックホルツ

協力:サバーニ・ジャヤスリヤ

新型コロナウイルス感染症のワクチン配布に向けた準備が進む中、デリーで医療テクノロジー企業を経営する起業家のプラシャント・タンドン氏は、これから始まる戦いへの準備に余念がない。タンドン氏は、新型コロナとの戦いは、医療関連のサービス製品の備蓄の準備、調整、そして輸送にかかっていると確信している。同氏は、適切な物流の確保は、公衆衛生上不可欠であるのみならず、関連業界、民間セクター、そして政府間のパートナーシップが、あらゆる人々に成果をもたらすことを証明する機会になると語る。

新型コロナの感染がインドで初めて確認され、政府が厳格なロックダウン(都市封鎖)に踏み切ったことでIFCも出資するタンドン氏が経営するデジタル医療プラットフォームの1mg は、「ミッション・モード」に突入した。配達員や最前線で働く従業員が、医薬品を顧客の手元に届け、様々な臨床検査のサンプルを回収した。新型コロナの感染が拡大する中、患者向けのオンライン診療体制を強化した。さらに、政府の規制機関と連携し、オンライン薬局のガイドラインの明確化を推進するとともに、他の物流企業がサービス対象外とする地域で、積極的にパートナーとの連携を模索した。現在は、新型コロナワクチンの輸送に必要な低温物流のインフラの構築に、インド全域で取り組んでいる。

13億人超の人口を抱えるインドで新型コロナへの対応を進める1mgは、中核となる事業戦略の見直しを迫られている。なぜなら、この危機は一時的なものではなく、世界レベルで深刻かつ重大な断絶を引き起こしているからだと、同社の創設者兼CEOでもあるタンドン氏は語る。1mgは、保健医療サービスや関連する物流管理の中核にテクノロジーを据え、医薬品や健康関連商品をより適切に追跡、モニタリング、そして配達することに注力している。「現時点では、商品のトレーサビリティ(追跡可能性)はほぼないに等しい」とタンドンCEOは指摘する。「石鹸やマッチ箱にはバーコードがついているが、医薬品にはない。ワクチンのような重要な商品については、信頼・安心できるようにサプライチェーン全体のトレーサビリティを確立することが不可欠だ。

 


1mgの創設者兼CEOのプラシャント・タンドン氏。写真:アディティア・カプール/JDot

1mgと同様に、域内の他のスタートアップ企業も、新型コロナに関する物流面の多様なニーズに応えるべく対応に乗り出している。東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)の上級エコノミストであるベンカタチャラム・アンブモリ氏は、インド及び南アジア全域で、物流会社が今後の状況に対応できるよう「今こそ従来のビジネス手法を見直す時だ」と語る。南アジアのバリューチェーンの強靭性を追跡調査する同氏は「物流業務のデジタル化といった変化の推進力の一部は恒久的なものだ」と続けた。

サプライチェーン・マネジメントを専門とするロンドン大学ロイヤルホロウェイ校のオメラ・カーン教授は、こうした変化がもたらす可能性に注目すべきだと指摘する。「このパンデミックが、供給の断絶に関して示唆する有益な教訓は、強靭性に関しても有益な教訓となった」とカーン教授は語る。「現下の危機を乗り切り、将来の危機に備えるためにも、我々はグローバリゼーションからリージョナリゼーション(地域化)へと移行している。今は、地方の物流企業が現地市場で競える機会が現実に存在している。

まずはワクチンの配布を

新型コロナにより、ワクチン関連のニュースを熱心に求める人々が、物流 専門家さながらの知識を持つようになった。「コールドチェーン」という新たな用語が日常的に使われるようになり、ニュースの見出しを拾い読みする世界中の人々が、一部の新型コロナのワクチン輸送にかかる厳格な要件やこうした要件を満たすサプライチェーンが不可欠となることを理解した。サプライチェーンの重要性はこれまでになく高まっている。PwCのヘルス・リサーチ・インスティテュート によると、ワクチンのサプライチェーンが機能しなければ、経済回復は頓挫し、ますます多くの人命が失われる危険性がある。

日本及びノルウェーの両国政府が支援するIFCの40億ドルの「グローバル・ヘルス・プラットフォーム 」は、サプライチェーンが抱えるギャップを解消し、感染拡大を抑制するために途上国の新型コロナワクチンをはじめとする医療品へのアクセスを改善するための資金を提供する。また同プラットフォームを通じ、低所得国の生産能力の向上も支援し、投資と雇用創出の促進も図る。

南アジアでは、新型コロナが既に経済に深刻な打撃を与えており、世界銀行の最新の見通し によると、2020年の生産高は推定で6.7%縮小する見込みだ。なかでもインドは影響が大きく、2020年のGDP成長率は9.6%の縮小が予測される。新興国・途上国市場のなかでも最速で成長してきたバングラデシュの実質GDP成長率は、2019年の8.2%から2020年は2%へと大きく落ち込んだ。さらに、スリランカでは、新型コロナの流行により、既に厳しかったマクロ経済状況が一段と悪化しており、成長率は6.7%縮小する見込みだ。最新の四半期データは、2020年の成長率が当初予測を上回る可能性を示しているものの、南アジア地域は過去最大の落ち込みを記録すると予想される。さらに、IMFの最新の世界経済見通し によると新たな感染の波や、ウイルスの新しい変異種が成長見通しに深刻な懸念をもたらしている。したがって、迅速なワクチンの展開が、強靭な経済回復の鍵となる。

これには、温度管理を徹底させた物流網が不可欠だ。しかし、直近のIFCの報告書 では、公衆衛生の確保にそれは不可欠だがその重要性が十分に認識されていないケースが多いと指摘している。新型コロナワクチンのなかには、工場から接種までの間、低温(ワクチンによっては南極以下の温度)での輸送と保管が必要なものもあるからだ。南アジアで配布されている、あるいは利用が検討されている新型コロナワクチンの全てが、これほどの低温での管理を必要としているわけではない。しかし、どれも何らかの形での冷蔵が必須であり、冷蔵トラックと冷蔵倉庫の不足に加え、電力供給が不安定であることが問題となっていると同報告書は指摘している。

こうした物流面の課題に取り組んでいるのが、コールドチェーン・バングラデシュ社 Cold Chain Bangladesh Limited)だ。同社のノウハウは、長年にわたるアイスクリームと冷凍食品の輸送という、本来とは違う経験から得たものだ。

コールドチェーン・バングラデシュ社は、10年に及ぶ冷凍食品とアイスクリーム事業のノウハウを活生かし、同国初となる温度管理機能を備えた倉庫のネットワーク構築に取り組んでいる。写真:ヌールフォトフェイス

コールドチェーン・バングラデシュ社は、ゴールデン・ハーベスト・アイスクリーム社とゴールデン・ハーベスト・フーズ社という、共に10年の歴史を有する企業の子会社だ。ゴールデン・ハーベスト・フーズ社の会長を務めるラジブ・サムダニ氏は、新型コロナ流行以前の2019年に、バングラデシュ初となる温度管理機能を備えた倉庫のネットワーク構築のため、IFCと合弁事業 合意に至ったと明かした。同プロジェクトは、新型コロナの流行により中断を余儀なくされたが、2022年に完了する予定だ。

冷凍食品、アイスクリーム、そして医薬品の配送網をバングラデシュ全土に構築した経験から、サムダニ氏とスタッフは、事業の次の段階に応用できる貴重な教訓を得ることができた。同氏は「全ての国で、コールドチェーン・ネットクワークを構築することが必要だ」と語る。「選択の余地はない。コールドチェーン・ネットワークなしでは、産業は育たず、価格も安定せずに国が脆弱となる。」 

IFCのアジア大洋州産業担当のディレクターであるイザベル・チャタートンは、新型コロナはバングラデシュをはじめとする新興国市場の物流業界に、テクノロジーの普及とデジタル化、さらに新たな事業形態の導入を促したと指摘する。同氏は、バングラデシュに関するIFCの最近の分析によれば、中長期的に民間セクター主導の投資機会は10億ドル規模に及ぶ可能性があることに触れ、サプライチェーンの再構築は「興味深い機会をもたらす」と語る。

コールドチェーンと物流サービスを一体化した新会社は、多くの海外投資家から注目を集めているとサムダニ氏は認めながらも、現在最も注力すべきは、国内を最優先に考えての事業構築だとする。

「公衆衛生と国内の経済成長で重要な役割を果たす機会を手にしている」とサムダニ氏は語る。「まさにバングラデシュの歴史的偉業を成し遂げているのだ。」

コールドチェーン・バングラデシュ社の運転手であるヌール・ムハマドは、商品を同社の冷蔵保管施設からダッカ市内全域に配達している。写真:ヌールフォトフェイス

パンデミック時代のパートナーシップ

南アジアの他の物流業者は、ワクチンや医薬品をはじめとする必需品を最も必要としている地域に届けるため、積極的に連携を模索している。

インドのシャドウファックス Shadowfax)は、IFCの出資を受け、短時間での個別配送サービスのための物流プラットフォームとして6年前に立ち上げられた。同社は、ワクチン輸送に必要な地上支援サービスの提供という使命達成に向けた取組みを強化している。具体的には、ワクチン輸送用の冷蔵車によるコールドチェーンの地上輸送網の整備に加え、高速貨物輸送ではスパイスエクスプレス(SpiceXprss)とも連携している。

シャドウファックスのネットワーク・パートナーシップ担当責任者であるラーフル・クマール氏は「このように重要な任務遂行には、適切なパートナーとの関係構築が不可欠だ」と語る。

ベンガルールのシャドウファックスの配送センターで積み荷をスキャンする従業員。写真提供:シャドウファックス

1mgのタンドンCEOは、物流ネットワークを遠隔地まで拡大することが同社の最優先課題とする。現在、同社はこの実現に向け、継続的に新たな連携の可能性を模索しており、同氏は「パートナーシップこそ私の信念」と語る。 

現在の協働体制により、1mgはインド国内の50都市に新型コロナワクチンを配送管理することが可能で、最終的には、1日あたりのワクチン接種者数を50万人から100万人まで増やせると見込んでいる。 また同社は、ワクチン管理有資格者に対するオンデマンド形式での研修提供、ワクチン接種の予約やコールドチェーンの配送インフラ整備に必要な技術開発も行っている。

「文化の変化」

物流業界における競合企業間の連携は最近の動きだ。しかし、サプライチェーンのイノベーションは不可欠であり、バリューチェーンでの連携が将来的なビジネスの成功を導くとしたDHLとマッキンゼーの最近の調査 結果を裏付けている。ワクチンの配送管理を安全かつ成功裏に行うには多くの要素が必要であり、異なるサプライチェーンのサービスやパートナーを組み合わせることも、サプライチェーンのイノベーションの一例とみなすことができる。

倉庫保管もこうした要素のひとつだ。IFCが融資するインドスペース(IndoSpace)は、工業不動産や倉庫保管といった事業への投資、開発及び運営管理を行っている。同社は、インドで新型コロナワクチン用の温度管理が可能な保管施設を拡充するため、2020年末にクールエックス(KoolEx)との連携を決めた。この連携を通しインドスペースは、温度管理機能を備えた医薬品物流センターを、インド国内に3カ所設立する。その第一弾がムンバイ近郊の施設で、インド最大の独立型の温度管理保管施設となる。

 

エバーストーン・キャピタル(Everstone Capital)の不動産担当副会長でありインドスペースの経営陣にも名を連ねるラジェッシュ・ジャッギー氏は「倉庫業界及び物流業界は、新型コロナワクチン接種プログラム、ひいてはインド経済の立て直しで重要な役割を果たすだろう」と語る。「ラストマイル・サービス(商品を届ける物流の最後の区間)への新たな需要に迅速に対応する倉庫・物流セクターは、コロナ禍にあるインドで最も強靭なセクターの一つだ。」

サプライチェーンを専門とするカーン教授は、企業間の連携の数と内容が時代を反映していると考えている。「(パートナーシップは)単なる事業取引ではない。企業は自らの行動が人命を救っていることを自覚しており、文化の変化がここに見られる。」

物流コストを下げる

新型コロナの流行に起因する物流業界のもう一つの文化的な変化が、実際にインドで起こっていると指摘するアナリストもいる。デロイト・インドのパートナーで政府・公共サービス担当責任者であるアリンダム・グーハ氏は「政府と民間セクターの連携が増えている」と指摘する。「この傾向は、個人防護具(PPE)の生産及び流通にかかる既存の能力の見直しから始まり、13億人を守るという極めて困難な大仕事を成し遂げるべく、現在でも続いている。」

これは、新型コロナが引き起こした世界的な傾向だ。物流業界大手のDHL が作成した白書によると、政府は医療品サプライチェーンで積極的な役割を果たす方向にシフトしている。この白書の中でDHLは、コロナ危機が始まって以来学んできた数々の教訓が、公衆衛生の緊急事態下において、政府が必要不可欠な医療品を確保するにあたり、十分に練られた計画とサプライチェーン・パートナーとの効果的な協働が重要な役割を果たし得ることを示すと結論付けている。

インド政府は、物流を同国の重要な経済改革の中でも特に重視しており、パートナーシップによってサプライチェーンの早急な構築を目指している。同国政府は、2017年に新たに商工業省内にロジスティックス部門を設置、また、物流コストの削減を目指した国家物流政策の確立も目前となっている。コンサルティング会社のアーサー D.リトルとインド工業連盟の合同報告書によると、インドでは、物流コストが対GDP比で14%に達するなど、米国(9.5%)、ドイツ(8%)、日本(11%)より著しく高くなっている。

物流コストが高いと「経済競争力にマイナスの影響を及ぼし、経済成長の足かせとなる」と、オックスフォード・エコノミクスのインド及び東南アジア経済担当責任者のプリヤンカー・キショール氏は問題を指摘する。

国家物流政策は、この問題をはじめとしたサプライチェーンの課題への対応を意図したものだが、デロイト・インドのパートナーであるシュバム・グプタ氏は、対策案の一部は、今般の新型コロナの流行及び今後のあらゆる公衆衛生の危機において特に役立つとしている。グプタ氏が有望だと考える主要な措置の一つが、物流業界における国内需要と供給に関するデータの追跡及び取得を可能するデジタル化への移行に関する規制である。

「現在、データはないが、物流セクターの強靭性を保つ上で重要だ」とグプタ氏は語る。「十分なデータを収集することで、物流のスタートアップ企業が、今後起こり得るコロナ禍のような緊急事態に備えることができる。」

エコシステムを支える

国家物流政策で提言されているような、テクノロジーを利用した物流プラットフォームや新たな関連措置に対する政府の前向きな姿勢は、インドの2,000億ドル規模の物流市場における「物流強化の重要な推進力」となると、2019年のマッキンゼーの報告書 は指摘している。

ERIAのエコノミストであるアンブモリ氏は、コロナ後の世界では、物流業者と政府間、さらには銀行セクターも交えた形でのこうした対話が、回復を牽引する資本の投入を促進する上で不可欠だと語る。

一方で、物流業界の前途には依然として課題が山積している。とりわけ、インドではトラック業界の細分化が大きな問題となっている。さらに、老朽化が進んだインフラと労働者の大部分がインフォーマルセクターに属しているといった現状が、国レベルでの進展の足かせとなっている。市場の99%が組織化されておらず 、連携不足がサプライチェーンの断絶を引き起こしていると、インドの物流技能審議会(Logistics Skill Council)は指摘する

インドのベンガルール市内を走るシャドウファックスの配達パートナー。写真提供:シャドウファックス

 ブラックバック 幹部のウッタム・ガロディア氏は「時に機能停止状態に陥ることもある」と語る。IFCが出資する同社は、インド全土でトラックの運転手と荷主をつなぐオンライン・プラットフォームを運営している。「以前は、トラック業界の細分化が大きな需供ギャップを引き起こしていた。たとえば、ユニリーバはトラック10台を必要としていたのに、調達できたトラックは1台だった。必要なトラックが1台という時には、十数人ものトラック運転手が売り込みの電話をかけてきた。」

ブラックバックは、ロードボードと呼ばれるデジタル・システムを使い、荷主は依頼したい仕事を入力し、それに対しトラック運転手が入札する。加えて、同社は、法人の荷主と業務契約を結び、地域クラスター全体への貨物の輸送ニーズに対応している。同社によると、こうした連携により、顧客の一部は物流コストを10~12%削減することができた。

こうした進展の一方で、インドでは、新型コロナの感染拡大により、商取引が80%減少し、至るところでサプライチェーンの断絶が発生したとガロディア氏は語る。同社は、全土のロックダウン開始から2カ月後には、物流の流れを確保するため「ムーブ・インディア」という取組みを立ち上げ、行き詰った物流業界の活性化を図った。この取組みの下、製造業者や取引業者などの荷主は、ブラックバックのプラットフォームを割引価格で利用することができた。また、ブラックバックは手数料を免除するとともに、運転手を呼び戻すため、給与の直接入金や業務中の事故に対する保険、さらには業務中に新型コロナに罹患する可能性がある運転手を対象とした救済基金を設立した。ガロディア氏によると、配達署名や料金徴収のデジタル化など自動化されたプロセスを導入したことで、コロナ禍においても運転手の健康を守ることができ、「エコシステム全体を支えた」と語る。

同氏によれば、新型コロナの流行に対するこのような対応策が功を奏し、トラックが再びインド全土に商品を運べるようになったことで、同社の事業はコロナ禍以前に比べ、わずか20%の下落にとどまっている。

現地の雇用創出を促す

このような戦略の下で新型コロナへの対応を進める物流業者が雇用を守っている。また、一部のスタートアップ企業は、パンデミック関連の需要を背景に、配達パートナーの大量採用に踏み切った。たとえば、シャドウファックスは、インドでの新型コロナによるロックダウン開始以降、配達パートナーの採用を従来より60%増やし、現在、インド500都市で5万人の配達パートナーが働いている。

シャドウファックスの共同設立者であるアビシェーク・バンサル氏は、同社のような地域物流会社は、人々の雇用を守る上で特別な役割を果たしていると語る。

 「物流業界における雇用可能性は、私自身にとっても重要な意味を持つ。というのは、私自身貧しい街の出身であり、雇用不足がもたらす結果を実際に目の当たりにしてきたからだ」とバンサル氏は語る。「物流業界は、商品を配達することで賃金を得る。人々は、自身の都合に合わせてパートタイムの『ギグワーク』が可能で、同時に彼らのコミュニティを支援することができる。」

まさにこれを実践しているのが、スリランカのケスベワ出身のラサンダ・ディープティだ。41歳のシングルマザーであるラサンダは、IFCが出資する同国初の配車サービスアプリであるピック・ミー Pick Me)のドライバーだ。このサービスは、オート三輪のトゥクトゥク、オートバイ、車、そしてバンの運転手を、乗客とリアルタイムでつなぐ。ディープティが、ピックミー初の女性運転手として働きだしてから5年半が経過した今、彼女はピックミーからの収入で生計を立てている。「ピックミーから得る収入は重要で、大きな違いを実感している。私は自分の力で生きている。」

スリランカのコロンボでオート三輪のトゥクトゥクを運転するラサンダ・ディープティ。写真:ナドゥン・バドゥグ

2014年の設立以来ピックミーは事業を拡大し続け、食料品や日用品、小包を配達するデジタル・モビリティ・ソリューションへと成長した。昨年スリランカでは、新型コロナの流行に伴い数回にわたりロックダウンや、厳しい夜間外出禁止令が発令され、必需品への需要が増加したことでこの流れが一段と加速した。ピックミーは、国営の食品サプライヤーと連携し、食料品や必需品、ガスを家庭に届けるなど、実質一晩にして必需品の配達に特化した物流企業へと変貌を遂げた。さらに緊急ホットラインを設置し、医療スタッフの病院への送迎や出産が迫った妊婦の移送、立ち往生していた4,000人を超える観光客が帰国できるように彼らを空港に送り届けた。スリランカの商業の中心地である首都コロンボ以外でも業務を行う唯一の配車サービス会社として、大都市以外の地域でも人々の移動や必要な商品やサービスを利用できるように支えてきた。

緊急事態に対応するようになったことで、ディープティのようなピックミーのパートナー運転手は雇用を維持することができ、家族4人を支える唯一の稼ぎ手であるディープティは心から安堵した。ディープティをはじめとするピックミーの運転手は、病院への送迎に加え、調理用のガスも配達する。ディープティはガスボンベを取り扱ったことはなかったが、「特にお年寄りが助けを必要としている時は進んで行った。(この仕事は)送迎や食品を配達するだけでなく、100%社会奉仕の意味を持つ」と語る。

ロックダウンや隔離生活により、危機以前と比べて個人の顧客が、デジタルプラットフォームの利用により前向きになった。 とりわけ、より地域密着型のサービスを導入し、ユーザー体験を一段と重視するようになってからこの傾向が強まっていると、ピックミーの設立者であるジフリー・ザルファー氏は指摘する。これまで、スリランカではスマートフォンを使った注文はそれほど多くなかった。しかし「新型コロナによりデジタルが主流化した」と同氏は語る。

ザルファー氏は、ピックミー設立時、公衆衛生面での業務は想定していなかった。しかし、新型コロナへの対応策の一環として、同社は引き続き需要に応えるべく取組みを進めている。同氏は、新型コロナの影響に対応する中で物流テクノロジーの重要性を目の当たりにし、まさに驚嘆している。

「この差し迫った状況下で国の支援に奔走するピックミーのドライバーや利用者の健康と安全を確保しつつ、必需品を妥当な価格で届けることで、我々は人々が抱える経済的・社会的な苦難を和らげることができる。」

会話に参加する: #IFCmarkets

2021年2月 発行