ヴィリアミ・ロータワはこれまで7年間、オーストラリアで果物を収穫して得た賃金をトンガで暮らす家族の食料、電気、医療やその他生活必需品の購入のために送金している。ヴィリアミの仕事は肉体的に過酷であり、妻のアナや子供たちに会う機会も滅多にない。
「この仕事をして家族を支えるためにオーストラリアに来た」とヴィリアミは語る。「家族の将来のためにやっていることだ。」
オーストラリアでは、数多くの太平洋島諸国出身者がヴィリアミのように季節労働者として働いている。彼らが家族に送る資金、いわゆる送金は、家族を支え、さらには小規模ビジネスの開業資金となるなど重要な役割を果たしている。2019年の低・中所得国への送金額は、過去最高の5,540億ドルに上った。送金は、太平洋島嶼国やさらに遠方で暮らす人々にとって、貧困からの脱却への道を拓くものだ。
日付変更線のすぐ隣に位置する172の島々から成るトンガは、海外労働者からの送金額が世界で最も多い国で、昨年の送金総額は対GDP比で約37%に達した。トンガでは5世帯中、4世帯が海外送金を受け取っているなど、送金は現地の人々の重要な収入源となっており、その規模は家計消費の約30%に相当する。
トンガのポヒヴァ・トゥイオネトア首相は「送金は家族を助けるだけでなく小規模ビジネスの開業資金となるケースも多い。雇用を生み出し、経済を押し上げる役割も果たしている」と述べている。
トゥイオネトア首相は、オーストラリアで立ち上げられたデジタル送金サービスについて、これにより、資金を最も必要としている時にトンガに残る家族により多く、かつ確実に送金することができると高く評価した。
トンガで暮らす家族たちにとって送金は重要な収入源である。オンラインのキャッシュレス送金サービスである「アヴェ・パアンガ・パウ(安全な送金)」は、新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退が太平洋の小国である同国の経済を揺るがす重大な局面での立ち上げとなった。
シドニーの病院に医薬品を配達する宅配便事業を営むオファ・タウファは、姪のメレ・フィフィタ・シウに送金している。写真:マイケル・パワー/IFC
世界銀行とオーストラリア及びニュージーランド政府の支援を得て、IFCとトンガ開発銀行(TBD)が開発した同送金サービスより、他と比べて大幅に安い手数料で安全かつ迅速に母国に送金することができるようになる。
オーストラリアのマリス・ペイン外務大臣は「オーストラリアは、こうした送金にかかる手数料のわずかな違いが大きな差を生み出すことを理解している」と述べている。「送金は、勤勉なトンガの労働者とその家族に変化をもたらすことができる。」
トンガの人々が母国への送金で支払う手数料は、世界でも最も高いと言われている。同時に、太平洋地域では送金サービスの事業者数が大幅に減少しており、結果的に同セクターの競争が阻まれ、人々に残された選択肢は少なく相対的に高価な手数料を支払わざるを得ない状況になっている。
アヴェ・パアンガ・パウの送金にかかる手数料は5%と、市場平均の約半分で、一部のサービス業者が提示する手数料を大きく下回るなど、かなり低く抑えられている。
トゥイオネトア首相は「送金はトンガ経済にとって不可欠であり、アヴェ・パアンガ・パウは、トンガの全ての人々に繁栄をもたらす重要な手段の一つだ」と語る。
アヴェ・パアンガ・パウは、2017年にニュージーランドで最初に立ち上げられ、以来広く利用されている。同サービスの利用を契機に、多くのトンガ人が初めて貯蓄をはじめ、銀行口座を開設するなどの付加的な恩恵ももたらしている。これまで、同サービスの利用により、約2,000の銀行口座がトンガで開設されている。
ニュージーランドではトンガの季節労働者の95%超が同サービスを活用している。
ニュージーランドでの送金サービス開始以来、送金取扱い件数は5万件を超え、3,000を超える顧客が同サービスに申し込み、利用している。
トンガ開発銀行のリータ・カミCEOによると、新型コロナの大流行によりニュージーランドにおける同送金サービスの利用が急増した。「これほどの増加は予測していなかった。」
「新型コロナを抑え込むため、突然に前例のない対応策が取られる中、ロックダウン(都市封鎖)により人々がオンラインの解決策を求めていることは明らかだ」と同氏は続けた。
新型コロナの流行により、送金の世界的な見通しは暗い。移民労働者の母国への送金額は、2019年の新型コロナ流行以前の水準から2021年までに14%減少する見込みだ。新型コロナが世界経済に重くのしかかり、多くの人が職を失い労働移動が著しく抑制されている。これは、送金コストが大幅に低いサービスがこれまでになく重要であることも意味する。
太平洋に位置する多くの国々の経済にとって、まさに命綱といえる観光業も不振が続いている。昨年トンガでは、観光業はGDPの20%を占めた。この貴重な収入が途絶えるという状況下での、オーストラリアでのアヴェ・パアンガ・パウの立ち上げは、母国に送金したいと願う在豪トンガ人にとりまさに絶好のタイミングだったと言えよう。
IFCのアルフォンソ・ガルシア・モラ・アジア太洋州担当副総裁は「かつてないほど相互連関性が高まっている世界において、新型コロナは、最も甚大で、かつ長期的な影響を受けやすい最貧国における不平等の拡大という『パンデミック』をもたらした」と述べている。
「同時に、国境が閉鎖され移動が制限される中で、多くの人々が家族やコミュニティと切り離されるなど、隔たりという新たな過酷な状況を強いている。このような危機的状況下で、送金の重要性がますます高まっている。」
同副総裁は、アヴェ・パアンガ・パウがもたらすトンガの人々の生活へのプラスの影響は、他の太平洋諸国をはじめ世界中の良き前例となり得るだろうと語る。
ヴィリアミが稼ぎ、家族に送金する資金は、より効果的に活用されるだろう。「海外から送られる資金を賢く利用しなければならない」とヴィリアミの妻のアナは語る。「送金された資金を増やし、家族を支えることができるような方法で生かしていく。」
そして、アヴェ・パアンガ・パウは安心ももたらしている。「混雑した町中に出かける必要もなく、夫は自宅から送金することができる。これは最も安全な手段だと確信している。」
2020年11月発行